こんにちは、PC周辺機器メーカー直販サイト「アイオープラザ」店員、NAS(ナス)の「なっさん」です!
前回の記事では、「そもそもバックアップってなに?」「なんのためにやるの?」という疑問にお答えしました。
今回と次回はその続きとして、
「バックアップってどうやるの?」
という疑問にお答えする内容を、2回に分けてお話ししていきます。
まず今回は「バックアップする媒体を選ぶ5つの観点」について。
これはNASだけでなく、PCなど「バックアップ全般」に通用する”考え方”の話です。
今回も”だいたい本音”でお話ししますので、ぜひ最後までご覧ください!
※本コンテンツは法人向けです。
バックアップを難しくする、ふたつの要素
例えばNASを導入して間もない方が、
「さあ、バックアップしてください」
と突然言われても、経験がなければなかなか難しいと思います。
そういう方が一体なにを「難しい」と思うのか……私たちはそれを、
- バックアップ先の「媒体」を選ぶこと
- バックアップの「頻度と種類」を選ぶこと
のふたつだと考えています。
まず「媒体」について、例えばNASのバックアップを取る場合は、USB HDD、クラウドストレージ、他にも磁気テープメディアなんて選択肢もあり得ます。
PCのバックアップを取っている方の中には、もしかしたらUSBメモリやSDカード、BD-Rメディアなんかをお使いの方もいるかもしれません。
ここでなにが言いたいかというと、
- 世の中に「データを保存するための媒体」の種類は、たくさんある
- しかしそのどれが「バックアップに向く媒体」なのかは、あまり知られていない
ということです。
「湖に張った氷の上に、頑丈な家を建てよう」と本気で言うひとがいたら、正気を疑いますよね? どんなに家が立派でも、氷が溶ければ湖の底です。
それと同じように、バックアップに向かない媒体を用いると
「いつの間にかデータが失われてた……」
となりかねません。
また「頻度と種類」について、例えばNASに1TBのデータがある場合、
- この1TBのデータを毎日全部バックアップすべきなのか? 1週間に1度でいいのか?
- 毎回全部バックアップすべきなのか? 増えたデータだけでいいのか?
- バックアップ媒体の容量が足りなくなったら、前のデータは消していいのか?
等、運用に関する疑問が数多く浮かぶことも珍しくないでしょう。
この「媒体」および「頻度と種類」について順番にご説明したいと思いますが……今回はまず、「媒体」について深掘りしていきます。
バックアップ先の媒体を選ぶ5つの観点
HDD、USBメモリ、DVD-Rなど……世の中には、データを保存する媒体の種類が幾つもあります。
それらの違いは多岐にわたりますが、バックアップ先として考えた場合、最低限以下5つの観点を持つべきだと考えます。
- 長期保存性
- 容量
- 価格
- 転送速度
- セキュリティ性
順番にお話しさせてください。
1.長期保存性
バックアップしたデータは、いつ必要になるか解りません。
場合によっては、バックアップした時点からかなりの時間が経過したあとに利用することもあるでしょう。
そして各保存媒体には、技術的な意味での「データ保持期間」というものが存在します。
どんな媒体でも使えば使うほど劣化しますし、使わなくても自然劣化しますので、一度保存すれば安心、というわけでもないのです。
その観点で言うと、まずフラッシュメモリーを使った商品(USBメモリ、SDカード、SSD)はバックアップに向きません。
通電しない状態で保管すると徐々に電子が抜けていくため、いつの間にか保存したデータが読み込めなくなっている……といった事態に陥るリスクがあります。
逆に、HDDは通電しない状態で保管するほうが、劣化が進みません。
その意味ではバックアップ媒体として使用可能です。ただし故障リスクはありますから、10年といった長期スパンで保管する場合は、HDD以外の媒体が選択肢として適切でしょう。
具体的には、書き込み・読み込みをするドライブと、実際にデータを記録するメディアが分かれた媒体が適しています。
その中で最も入手しやすいのは、DVD-RやBD-Rなどの光メディアです。これらは暗所など適切な場所に保管すれば、10年前後はデータ保持ができると言われています。さらにM-DISCという耐久性を高めた特殊なDVD、BDメディアなら、100年以上データを保持できるというのが公式な仕様です。
もうひとつ、大規模なシステムなどのエンタープライズ領域でよく使われるのはLTOという磁気テープメディアです。
「テープ」というと何10年も前に隆盛を極めたオーディオ用カセットテープを思い出す方がいるかもしれませんが、仕組みとしては同じものです。
そのデータ保持期間は30年~50年と言われており、近年も大容量化と高速化が進んでいます。
その他、バックアップ先としてはクラウドストレージという選択肢もあります。
信頼性はサービス提供元次第ですが、まともなサービスであれば、媒体特性によって「いつの間にか消えていた」ということは考えづらいでしょう。
以上「フラッシュメモリー製品(SSD、USBメモリー、SDカード)」「HDD」「光メディア」「LTO(磁気テープメディア)」「クラウドストレージ」など、色々な媒体についてお話ししましたが、この時点でフラッシュメモリー製品は省いてよいと考えます。
フラッシュメモリー製品 | HDD | 光メディア | LTO(磁気テープ) | クラウドストレージ | |
---|---|---|---|---|---|
長期保存性 | × | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
2.容量
当然ですが、容量が足りなければまともにバックアップを取ることはできません。
この点、光メディアは他に一歩譲るところがあるでしょう。最大容量の4層BD-R XLでも128GBですから、重要な一部データのみを保管するのには向いていますが、何TBものデータを丸ごとバックアップするのは不可能です。
一方、HDDやLTO、クラウドストレージは、容量については概ね問題ないでしょう。
当社のUSB HDD商品の最大容量は80TBですし、LTOは最新規格のLTO-9なら、1巻あたりの容量は18TBです。またクラウドストレージは、理屈としてはいくらでも容量を増やせます。
よってここで光メディアを省き、次項からはHDD、LTO、クラウドストレージについて比較したいと思います。
フラッシュメモリー製品 | HDD | 光メディア | LTO(磁気テープ) | クラウドストレージ | |
---|---|---|---|---|---|
容量 | - | 〇 | × | 〇 | 〇 |
3.価格
言うまでもなく、価格も重要な観点です。
同じ容量でも、媒体によって価格はかなり変わってきます。
例えば20TBのUSB HDDの当店販売価格は¥173,800です。
これに対し、LTO-9のカードリッジは18TBで市価\20,000~くらいなので非常に安価。ただし、LTOは読み書きに別途ドライブを導入する必要があります。その価格目安は\800,000~で、初期投資額は高めです。※2024年10月現在。
クラウドストレージはサービスによって価格に大分違いがありますが、原則月額課金であるため、長期的に見るとHDD、LTO以上に高くなる傾向があるでしょう。
フラッシュメモリー製品 | HDD | 光メディア | LTO(磁気テープ) | クラウドストレージ | |
---|---|---|---|---|---|
価格 | - | 〇 | - | 〇 | △ |
4.転送速度
容量と価格が要件を十分満たしても、バックアップにかかる時間が果てしなく、何日経っても終わらない……となれば、使い物になりません。
この点に関し、USB HDDとLTOはある程度の速度が出ます。
数値的な目安はUSB HDDが200MB/s、LTO-9で300MB/sと、LTOのほうがより高速です(/sとは「1秒間に転送できるデータ量」を示します)。
ただしLTOは「テープ」という特性上、頭から順番にアクセスする場合は高速ですが、任意のファイルを探してアクセスするような場合はかなり遅くなってしまいます(ランダムアクセスは苦手)。特定のファイルだけを復元するといった場合には、HDDのほうが有利です。
クラウドストレージへのアクセス速度は、回線速度など多くの要素に依存するため、一概に比較するのは困難です。ただ、変動要素が少ないUSB HDDやLTOのほうが、転送速度は安定すると考えたほうが良いでしょう。
フラッシュメモリー製品 | HDD | 光メディア | LTO(磁気テープ) | クラウドストレージ | |
---|---|---|---|---|---|
転送速度 | - | 〇 | - | 〇 | △ |
5.セキュリティ性
ひと口に「セキュリティ性」と言っても幾つかの観点があります。
例えば以下のふたつです。
- 媒体の盗難リスクが高いか?
- 不正アクセスのリスクが高いか?
ひとつ目は、物理的に盗まれるリスクです。
これはUSB HDDでもLTOでも、保管する建物のセキュリティがどうなっているか? が大きなポイントです。本来、バックアップデータを保管した媒体は鍵のかかった部屋や棚に保管すべきですので、そういった措置を行うかどうかにも依存します。
クラウドストレージについては、一般的にセキュリティに配慮したサービス運営が行われることが多いと思われます。ただしサービスによってセキュリティレベルは大きく異なるでしょうから、そういった観点で適切なサービスを選ぶべきでしょう。
ふたつ目については逆に「物理的ではない形で」データだけを盗まれるリスクです。
代表例として、世の中にはNASに感染するウイルス/マルウェアが存在します。それらは接続されたバックアップ媒体ごと感染してしまうリスクがあるため、バックアップを取った後の媒体は、NASと接続されていない状態で保管するのが望ましいです。
この点は、テープを入れ替えて使う構造のLTOが有利でしょう。USB HDDは運用でカバーできますが、バックアップを取った後もNASと接続しっぱなしだと、感染リスクがあります。
クラウドストレージについては、やはりサービスによって事情は異なると思います。
フラッシュメモリー製品 | HDD | 光メディア | LTO(磁気テープ) | クラウドストレージ | |
---|---|---|---|---|---|
セキュリティ性 | - | △ | - | 〇 | △ |
まとめ
以上5点、「1.長期保存性」「2.容量」「3.価格」「4.転送速度」「5.セキュリティ性」についてひととおり見てきましたが、媒体ごとの優位点を整理すると、以下のようになります。
フラッシュメモリー製品 | HDD | 光メディア | LTO(磁気テープ) | クラウドストレージ | |
---|---|---|---|---|---|
長期保存性 | × | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
容量 | - | 〇 | × | 〇 | 〇 |
価格 | - | 〇 | - | 〇 | △ |
転送速度 | - | 〇 | - | 〇 | △ |
セキュリティ性 | - | △ | - | 〇 | △ |
こう見ると、LTOが最もバックアップに適した媒体であると言えます。
ただし、前述どおり比較的高額なドライブを最初に買う必要があるなど、初期投資が高めである点と、テープメディアという特性上「特定のファイルにアクセスする速度が遅い」という点は注意が必要です。
次点としてはHDDとクラウドストレージ。
クラウドストレージが3項目で「△」なのは、単純に「ケースバイケースだから」。条件に合うサービスが見つけられるのであれば、有効な選択肢になるかもしれませんが……何TBものデータを全てバックアップしようとした場合、恐らく現状ではまだまだ価格面で現実的な選択肢にはなりにくいと思われます。
その意味で、HDD……ここでは特にUSB HDDを想定しますが、これは割と「誰でも簡単に使えて」「バランスが良い」媒体なのだと改めて思いました。
容量によっては数万円で買えますし、セキュリティ性は運用である程度カバー可能。長期保存性だって、そんなに悪くはないです。
このように、どの媒体も一長一短で、完璧なバックアップ媒体というのはありません。
ただ、バックアップは「やらない」のと「やる」のとでは致命的な差が生まれます。誤解を恐れずに言えば、どんな媒体であってもまずは「やる」のが大事です。
さて、今回はバックアップ媒体についてお話ししました。
次回はもうひとつの観点であるバックアップの「頻度と種類」から始め、今回までにお話しした内容も踏まえた「適切な運用例」まで一気に語りたいと思います。
NASのバックアップってどうやるのが正解? 3つの種類と運用例を紹介!
その他、「NASについての全般的なご相談」も広く受け付けております。
ここまで触れてきた内容の他、なにか導入の壁となるご懸念がございましたら、ぜひお気軽にお問合せください!
投稿者プロフィール
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PC周辺機器メーカー アイ・オー・データ機器の直販ECサイト「アイオープラザ」店員。
"難しい"PC周辺を"だいたい本音"で語り、"お客様が技術的な知識を学習せずに選べる店"を目指しています!
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