据え置き型LTEルーターはなにに使う? モバイルルーターとの4つの違いとは?

こんにちは、PC周辺機器メーカー直販サイト「アイオープラザ」店員、NAS(ナス)の「なっさん」です!

前回は、「LTEルーターとはなにか?」をお話ししました。
もの凄くざっくり言えば、一般的によく知られているWi-Fiルーターと比較し、

  • Wi-Fiルーター⇒光回線などの固定回線で使う
  • LTEルーター⇒通信キャリアが提供するLTE回線で使う

という違いがあります。
今回はそれを踏まえ、

「LTEルーターってなんに使うの?」

という疑問にお答えします。

特に本記事でお話ししているのは、特定の場所に固定設置する(持ち歩かない)タイプの「据え置き型」LTEルーターです。
同じ「LTE通信を行うルーター」である「モバイルルーター」との4つの違いもお話ししつつ、用途について深掘りしていきます。

今回も“だいたい本音”でお話ししますので、ぜひ最後までご覧ください!

※本コンテンツは主に法人向けの内容です。

LTEルーターはどこで、なにに使うのか

LTEルーターとは、

  • 光回線などの固定回線ではなく、敢えてLTEでインターネットに接続するルーター

ですが、もちろん伊達や酔狂で商品化されているわけではありません。

「一体どこで、なにに使うのか?」

これがひとつ目のテーマです。

まず「どこで使うか?」に対する結論を言うと、

  • 固定回線を引けない場所で使う

というのがシンプルな答えです。
これをもう少し細分化すると、以下の3つになります。

  1. 契約できる固定回線が存在しない場所
  2. 自分が固定回線を契約する、正当な権利を持たない場所
  3. 一時的にのみ、インターネット通信を必要とする場所

そして、実のところ「どこで使うか?」をお話しすることは、必然的に「なにに使うか?」を語ることにもつながります。

ひとつひとつ、順番にお話ししましょう。

1.契約できる固定回線が存在しない場所

30年前ならいざ知らず、今や高速インターネット回線は全国津々浦々をカバーしています。
だから、

「”契約できる固定回線が存在しない場所”なんてあるの?」

と思われるかもしれません。
ただ、

  • 過疎地域
  • 離島
  • 建物がない場所

など……割合としては少ないかもしれませんが、あります。
特に3つ目については、光回線の対象エリアであっても現実的に引けないということがあり得るでしょう。

「建物がない場所に、インターネット回線を引きたいことってある?」

と思うかもしれませんが、例えば、

  • 農作物を育てるビニールハウス
  • 電柱
  • 自動販売機

等々……PCやスマートフォンをつなぐ以外に、例えば”インターネット経由でなんらかの情報を取得するためのセンサー”を置きたいケースなども該当します。

その具体的な用途を考えると、

  • 農作物を育てるビニールハウス⇒ネットワークカメラで防犯、生育情報観察
  • 電柱⇒悪天候の際、電柱や電線に異常がないかを検知
  • 自動販売機⇒売れ行きや在庫状況をリアルタイムで収集

など、活用範囲は幅広いです。

2.自分が固定回線を契約する、正当な権利を持たない場所

これは上の例で言うと、

  • 自動販売機

が代表的かもしれません。

近年では、飲料などの自動販売機もインターネットに接続するようになっています。
しかし自動販売機のメーカーと、設置場所の土地権利者が同じとは限りません。

そうなると、自動販売機のメーカーが独自にインターネット回線を用意する必要がありますが、ここで「光回線を契約」という選択肢は現実的ではありませんし、費用効率を考えると「もったいない」でしょう。
そこで、工事なしでも気軽に使えるLTE回線が重宝される、というわけです。

自動販売機以外にも、

  • 証明写真機
  • コインロッカー
  • 宅配便受け取りロッカー
  • デジタルサイネージ
  • ボックス型ワークスペース

などが、似たようなケースと言えるでしょう。
無人であるがゆえに、正常に動作しているかどうか? という「死活監視」や、マーケティングに役立つ「利用状況把握」などの用途が考えられます。

3.一時的にのみ、インターネット通信を必要とする場所

3つ目は場所というより「場面」と言ったほうが適切かもしれませんが……例えば、

  • 展示会場
  • イベント会場
  • 一時出店のポップアップストア

など、常設ではない場所にもインターネット接続が必要なケースが多々ある、という話です。
施設側が固定回線を提供するケースもあるでしょうが、そうではない場合は自前で回線を用意せねばなりません。

具体的な用途は展示会、イベント、ストアの特性によって多種多様でしょうが……デモンストレーションや運営、代金決済に使う機材の通信等が考えられます。

また、もうひとつ重要なのが、

  • 固定回線に障害が発生している場所

です。
普段は光回線等で通信を行っている場所でも、なんらかの理由で障害が発生し、一時的に回線が不通になってしまうことがあり得ます。

その事態が「ひとときであっても許容できない」ケースが、世の中にはあります。
例えば人命の関わるレベルの情報をやり取りする通信インフラの場合、たとえ使われる可能性が低くとも、バックアップ回線としてLTE回線を常に用意しておく……そんな用途もあり得るのです。

さて、ここまでLTEルーターが「どこで、なにに使われるのか?」についてお話ししてきました。
ただ……ネットワーク機器に少し詳しい方なら、さらにこんな疑問を抱かれたかもしれません。

「モバイルルーターじゃダメなの?」

次は、それについてお話しします。

モバイルルーターと「据え置き型」LTEルーターの違い

「ルーター」と名の付く機器の中で、「Wi-Fiルーター」の次くらいに有名な機器があります。
それが、

  • モバイルルーター

です。
私見で恐縮ですが「LTEルーター」という名前より、遥かに知名度は高いと思います。

  • ポケットWi-Fi
  • ポケット型Wi-Fi

といった名称で呼ばれることもありますが、原則同じものと考えて問題ないでしょう。
その基本的な用途は、

  • 外出先で、複数のPCやスマートフォンをインターネットに接続すること

です。スマートフォンのテザリング機能が、独立した機器になっているとも言えます(一般に普及したのは、テザリング機能よりモバイルルーターが先ですが)。

このモバイルルーター、「LTE通信ができる」という基本機能はLTEルーターと同じです。
というか、モバイルルーターは「LTEルーターの一種」と考えられます。

ですが見た目からして、

  • 「据え置き型」LTEルーター
  • モバイルルーター

は別物です。

ではなにが違うのか?

前回お出しした「LAN」と「WAN」の俯瞰図をモバイルルーター用に書き換えると、以下のようになります。

これ、実はLTEルーターと全く同じです。
しかし、

「じゃあ、上に挙げてたような場所と用途で使うなら、モバイルルーターでもいいということ?」

と質問された場合は、「いいえ」とお答えします。
より本音で言うなら、

「まあ、使えないこともないっちゃないんですが、オススメはしないですね~」

という感じです。
なぜか? 以下、4つの観点からご説明させてください。

<上に挙げたような場所で、モバイルルーターをオススメできない理由>

  1. バッテリーが搭載されている
  2. ハードな環境に適していない
  3. アンテナが小さい
  4. 固定設置するには、機能が足りない

1.バッテリーが搭載されている

ひとつ目の理由は「モバイルルーターには、バッテリーが搭載されている」ことです。
据え置き型のLTEルーターには、バッテリーが搭載されていません。

「ん? バッテリーがあるのって、いいことじゃないの?」

もちろん”持ち歩くなら”バッテリーは必須でしょう。
ノートPCやスマートフォンにバッテリーが搭載されているのは、”持ち歩く”ことが前提の機器だからです。

ですが、バッテリーによる稼働時間には限りがあります。モバイルルーターも例外ではありません。
ですから、特定の場所に固定設置して使う場合、ACアダプタ等の電源に接続した状態で使うことになります。それが問題です。

「なんで?」

技術的な説明を極力省いてお話しすると、昨今一般的に使われる

  • リチウムイオンバッテリー

は、過充電や高温によって劣化が加速し、膨らみます。

寿命が近付くにつれて膨らむこと自体は、リチウムイオンバッテリーの特性です。しかしそれが原因で機器の筐体が変形したり、他の部品を圧迫したりといった事態を引き起こすことも。

言うまでもなく、そのまま使い続けることは望ましくありません。

要するに、モバイルルーターというのは

  • 設計上、ACアダプタにつなぎ続けて使うことを想定していない機器

です。
これが固定設置用途にモバイルルーターを用いることが相応しくない、ひとつ目の理由と言えます。

2.ハードな環境に適していない

ふたつ目の理由は「モバイルルーターは高温/低温の場所など、ハードな環境に適していない」ことです。

世に出回っているモバイルルーター商品の仕様を確認いただければと思いますが、恐らくほとんどの場合、「使用温度範囲」は、

  • 0℃~35℃
  • 0℃~40℃

くらいでしょう。

これは一般家庭機器における通常の仕様と言って良いので、悪いわけではありません。
確かに大抵の場合、室温はこの範囲におさまると思います(冷暖房を使わない場合、近年ではこの範囲におさまらないこともありますが……)。

ですが、上に挙げた用途の中には、

  • ビニールハウスなど、屋外光が当たる場所
  • 自販機、ロッカーなど、機器や筐体の内部

といった「室温より高温になりかねない場所」もあります。
また、レアケースかもしれませんが、「冷凍室」などの場所は「0℃以下」の環境です。

こういった場所でLTE通信を行いたい場合、モバイルルーターは相応しくありません。

ちなみに、ひとつ目でお話ししたリチウムイオンバッテリーは「暑さにも寒さにも弱い」特性を持つため、「高温/低温環境に適したモバイルルーター」というのは、実現が難しいものだと考えます。

3.アンテナが小さい

3つ目の理由は「モバイルルーターのアンテナが小さい」ことです。

LTE通信は「電波による通信」ですから、電波を安定して掴めなければ安定した通信環境を実現できません。
そして、普段意識することは少ないでしょうが、LTE通信を行う全ての機器には電波を受信するためのアンテナが内蔵されています。

もちろんモバイルルーターに内蔵されたアンテナ性能は、基本的に必要十分なものと言えるでしょう。
ただしこれも、

  • 外出先で、複数のPCやスマートフォンをインターネットに接続する

という用途においては、です。
例えば先程挙げた、

  • 自販機、ロッカーなど、機器や筐体の内部

で使用する場合、筐体の素材などによっては電波を通しにくいことがあります。
言うまでもなく、電波が通らなければLTE通信ができないので、使えません。

「それは、据え置き型のLTEルーターも同じじゃないの?」

確かにそうですが、据え置き型LTEルーターの中には、アンテナを増設、交換できるものがあります。例えば、

  • LTEルーター本体は機器や筐体の中に設置
  • 外付けのアンテナのみを筐体の外に出す

といった方法を取れるということです。

アンテナ自体が防水・防塵仕様なら、アンテナだけを屋外に出し、より安定した通信を実現することもできます。
こういった設置の自由度は、モバイルルーターにはないものです。

4.固定設置するには、機能が足りない

最後、4つ目の理由は「モバイルルーターの場合、固定設置するには機能が足りない」ことです。
これは「絶対に足りない」というより「足りないことがある」というニュアンスが正確でしょう。

例えば据え置き型のLTEルーターには、以下のような機能を搭載するものがあります。

  • PCなどの機器を有線LANで接続
  • 固定回線に障害が発生した際、自動でLTE回線に切り替える
  • LTE通信に障害が発生した際、再起動によって回線復旧を試みる
  • 通信の安定性を担保するため、定期的に再起動を実行する
  • 遠隔地から、リモートで再起動を実行する
  • 遠隔地から、リモートで稼働状況の管理や設定変更を行う
  • 遠隔地から、リモートでファームウェアのアップデートを行う

もちろん対応する機能は商品仕様次第ですし、モバイルルーターの中にもこれら機能の一部に対応する機種はあるかもしれません。

ただ、ここで強調したいのは、結局のところモバイルルーターと据え置き型のLTEルーターでは、

  • 想定される用途

が違うということです。
製品仕様を決める際の出発点、いわば「存在価値」が全く異なります。

だから私はなにも、

「モバイルルーターは、据え置き型LTEルーターに劣る機器だ!」

と言いたいわけではありません。

固定設置する用途においては、モバイルルーターがフィットしないだけです。それは「据え置き型LTEルーターを持ち歩く」ようなものだと言えます(まあ、それよりはましですが……)。

まとめ

というわけで今回は

  • 据え置き型LTEルーターの用途(どこで、なにに使われるのか?)
  • モバイルルーターとの違い

についてお話ししました。

用途については、

  1. 契約できる固定回線が存在しない場所
  2. 自分が固定回線を契約する、正当な権利を持たない場所
  3. 一時的にのみ、インターネット通信を必要とする場所

という3つの場所で使われることから、具体的には以下のような設置場所と用途が考えられます。

1.契約できる固定回線が存在しない場所

  • 農作物を育てるビニールハウス
  • 電柱
  • 自動販売機

 用途:防犯、異常検知、利用状況把握など

2.自分が固定回線を契約する、正当な権利を持たない場所

  • 自動販売機
  • 証明写真機
  • コインロッカー
  • 宅配便受け取りロッカー
  • デジタルサイネージ
  • ボックス型ワークスペース

 用途:死活監視、利用状況把握など

3.一時的にのみ、インターネット通信を必要とする場所

  • 展示会場
  • イベント会場
  • 一時出店のポップアップストア
  • 固定回線に障害が発生している場所

 用途:デモンストレーションや運営、代金決済に使う機材の通信等、障害時の通信継続など

また、これらの用途にモバイルルーターが向かない理由として、

  1. バッテリーが搭載されている
  2. ハードな環境に適していない
  3. アンテナが小さい
  4. 固定設置するには、機能が足りない

という4つの理由を挙げさせていただきました。
この4つがそのまま「据え置き型LTEルーターとの違い」です。

ここまでの内容を踏まえ、では実際にLTEルーターを活用しようと思った際、どのように機種を選べばいいのか?
次回はそれをお話しし、LTEルーターについての記事をひと区切りしたいと思います。

その他、「LTEルーターについての全般的なご相談」も広く受け付けております。
ここまで触れてきた内容の他、なにか導入の壁となるご懸念がございましたら、ぜひお気軽にお問合せください!

投稿者プロフィール

NAS(ナス)の「なっさん」
NAS(ナス)の「なっさん」
PC周辺機器メーカー アイ・オー・データ機器の直販ECサイト「アイオープラザ」店員。
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