こんにちは、PC周辺機器メーカー直販サイト「アイオープラザ」店員、NAS(ナス)の「なっさん」です!
前回の記事では「NASが壊れたときに備える」という前提で、リスク対策を語りました。
「NASって難しいの?」買う前に必ず考えるべき2つのリスクとは?
今回はその前段とも言える、
「そもそもNASが極力壊れないようにする方法はないの?」
という疑問について、”易しく”かつ”優しく”説明します。
ぜひ最後までご覧ください!
※本記事は主に法人向けのNASについて書かれています。
「壊れないNAS」はあるのか?
NASは、24時間365日稼働が前提の機器です。
大分毛色は違いますが、この点に限って言えば「冷蔵庫」みたいなものだと思ってください。
もし冷蔵庫が壊れたら、大量にストックした冷凍食品が……アイスが……えらいことになってしまいます(私事で恐縮です)。
「絶対壊れてほしくない機器」というイメージが伝わるでしょうか?
では「壊れないNAS」はあるのか?
これについてはズバリ、
「ありません!」
です。ごめんなさい。
要は諸行無常(形あるものはいつか壊れる)というやつです。
冷蔵庫だっていつかは壊れてしまうのです。
でも、じゃあ我々メーカーが「まあ、NASは壊れるものだから仕方ないよ」と、なんの対策も講じていないのかというと……もちろんそんなことはありません。
諸行無常だからこそ、
「どうすれば諸行無常を先延ばしにできるか?」
「せめて突然の諸行無常をいかに回避するか?」
ということを長年考え続けてきました。
今回はそれを
- NASを壊れにくくする方法。
- NASがいきなり壊れるのを抑止する方法。
- 限りなく「壊れないNAS」に近付ける方法。
の3つに分けてお伝えします!
NASを壊れにくくする方法①HDDの故障対策
敢えて話を単純化すると、NASが壊れる原因として多いのは、主要部材である「HDD(ハードディスク)の故障」です。
だからまず考えるべきは「いかにHDDを壊れにくくするか?」と言っても過言ではありません。
我々NASメーカーの商品ページにある要素の幾つかは、この観点に紐づきます。
具体的には、以下がその例です。
- 高信頼性HDD採用
- RAID等の冗長性対策
- 防振設計、防塵フィルター搭載
順番にご説明します。
1.高信頼性HDD採用
そもそもHDDメーカーは今や世界に数社しかなく、我々NASメーカーは原則それを採用する形です。
彼らのHDD製品にもラインナップがあって、
- PCなどのクライアントマシン向けのHDD
- NAS向けのHDD
- 監視カメラ向けのHDD
- データセンター向けのHDD
などに分かれています。
「一体なにが違うの?」
と思いますよね。
メーカーによっても異なりますが「用途に特化した仕様」になっているということです。
PCに搭載するHDDなら、「使用者がPCを使う日中」のみの稼働が想定されます。
ばらつきはあるでしょうが、24時間PCを使うひとはいないでしょう。
これがNASの場合は誰かが代わる代わるアクセスすることで、24時間稼働するということがあり得ます。
監視カメラの場合はさらにハードで、単なるアクセスではなく「書き込み(録画)」が延々続くことも珍しくありません。
データセンターの場合は極論、全世界から24時間アクセスされることが想定されます。
このように、用途によって「どのくらいHDDが激しく使われるか」が変わります。
HDDは消耗品ですから、激しく使われれば使われるほど摩耗してしまうのです。
論理的には「最もタフな用途に合わせた製品」があれば全てに使えますが、それではコストが上がり、結果として商品価格が高くなってしまいます。
だからHDDメーカー各社は、用途に合わせて「品質」と「コスト」のバランスを取ったラインナップを複数用意しているわけです。
そして言うまでもなく、NASには「NAS専用HDD」……言い換えると「24時間365日稼働を前提としたHDD」を採用するのが”望ましい”です。
「ん? ってことは、NAS専用HDDを搭載していないNAS製品もあるの?」
はい。
少なくとも仕様として明記されていない商品の場合は、ブラックボックスです。
ちなみに当社の場合、法人向けNAS製品には原則全てNAS専用HDDを採用しています。
一方、一般向けNAS製品の仕様には明記していません。
これは個人用途のNASが「法人用途に比べれば高い頻度で使われない」という考えから、コスト重視で策定された仕様です。
逆に考えると、法人で毎日使うNASについては、NAS専用HDDを搭載したNASを選ぶことが「NASを壊れにくくする方法」の第一条件だと言えるでしょう。
2.RAID等の冗長性対策
RAID(レイド)という言葉を聞いたことがありますか?
詳細な技術解説は専門的なサイトに譲るとして……ここでは端的に、よく使われるRAID1にフォーカスします。
RAID1とは、
「複数のHDDに同じデータを書き込むことで、片方が壊れても大丈夫! な技術」
です。「ミラーリング」とも呼びます。
乱暴な言い方かもしれませんが「” 1部のHDD”が壊れても、”NAS”が壊れないようにする機能」とも言えると思います(もちろん壊れたHDDは速やかに交換が必要です)。
このRAID1でよくある誤解が、
「バックアップと同じってこと?」
というものです。
これについては「似て非なるもの」と言えます。
バックアップは「ある時点のデータの状態を、NASとは別に(USB HDD等へ)取っておくこと」を指します。
だからこそNASが完全に故障しようと盗難に遭おうと、「データ喪失」という最悪の事態は回避できます。
RAID1はリアルタイムにミラーリングを行うため、” HDDの故障”が即”NASの故障”に繋がりにくいという意味で、「業務停止」リスクへの備えだと言えます。
前回の記事で書いたとおり、業務停止リスクに備えるのとデータ喪失リスクに備えるのは別の話とお考えください。
なお、さらに言うとRAID1は通常、同時期に製造されたHDDへ同じようにデータを書き込み、読み込み続けるため、
- 消耗具合が似てしまい、両方のHDDがほぼ同時期に壊れる。
- 1台のHDDが壊れて交換し、RAID1を再構築している間にもう1台が壊れる。
といったリスクがあります。
ないよりあったほうが遥かに良いのは確かですが、業務停止リスク対策としてもやや不完全な側面がある、ということです。
こういった問題に、独自の考えで対策しているメーカーもあります。
自分で言うと胡散臭いのですが……当社はそのひとつです。
RAID1の弱点を捉えた上で開発した、RAID1類似の「拡張ボリューム」という独自機能を、我々は法人向けNASの多くで標準設定としています。
具体的には、
「2台のHDDに同じデータを書き込むが、読み込みは1台のHDDからのみ行う」
といった方法を取ることで、2台のHDDの摩耗具合をばらけさせるという技術です。
メリットは他にもありますが、詳しく語ると長くなるのでまたの機会に。
ともあれ、RAID1や拡張ボリュームといった冗長性対策は長年にわたって広く採用されており、私見で恐縮ですがNASを導入する際には半ば「当たり前」の機能だと思います。
3.防振設計、防塵フィルター搭載
些細な話に思えるかもしれませんが、「筐体のつくり」もHDDの故障率を下げる大事な要素です。
HDDとは「磁気ディスク」で、内部構造としては「レコードの針が円盤を読み込む」のに似ています。
物理的な針(磁気ヘッド)が稼働するため、どうしても「物理的な衝撃に弱い」です。
衝撃によってヘッドが円盤(プラッター)を傷つけたり、ヘッド自体が破損したりします。
もちろん、NASは一か所に固定設置して使うものなので、日常的に使っていて振動で壊れることは滅多にありません。
ただ、例えば近くの工事現場や工場の振動がオフィスまで伝わったり、地震が発生したりといったリスクを鑑みた場合、例えば大型のインシュレーターを搭載するなど、防振構造を備えた機種のほうが、耐性があるのは間違いありません(もちろん、どれほど対策してもビルごと大揺れするような場合は難しいですが……)。
また、意外と忘れてしまうのが「塵や埃」への対策です。
NASに限らず、PC等の精密機器は塵や埃が大敵。
粉塵が舞う工場等の環境では、特に注意が必要です。
筐体機構として防塵フィルターを備えた機種もありますので、「悪環境かも?」と思われた方はぜひその観点もお持ちいただけると嬉しいです。
無論、これらは「耐性のある商品を選ぶ」という方法以外に「設置場所に気を遣う」という方法もあります。
振動や塵や埃がHDDの故障要因になり得るという観点を持つことが重要です。
以上が「NASを壊れにくくする方法①HDDの故障対策」です。
- 高信頼性HDD採用
- RAID等の冗長性対策
- 防振設計、防塵フィルター搭載
この3点のうち、特に1と2については必須級だと私たちは考えていますので、ぜひNASを選ぶ際には念頭に置いてみてください。
では、次は「NASを壊れにくくする方法②停電対策」についてお話しします。
NASを壊れにくくする方法②停電対策
HDDの故障対策以外で考えられるのは、UPS(ユーピーエス)の導入です。
「なにそれ?」
と思われた方、ひと言で言うと、
「停電時に電力を供給することで、機器の故障を防ぐ装置」
です。「無停電電源装置」とも呼び、中にはバッテリーが搭載されています。
蓄電池との違いは、UPSの目的が「電源の代わり」ではなくあくまで「唐突なシャットダウンを防ぐこと」にあるという点です。
停電で突然NASの電源が切れると、
- 内蔵HDDが故障する。
- 基板がショートして損傷する。
- RAID構成やファイルシステム等が破損する。
といったトラブルのリスクがありますが、UPSを導入すると、上記のリスクを回避して安全に電源を切ることができます。
「停電なんてそうそう起こらないよ」
と思われるかもしれません。
確かに日本は世界的にも停電の少ない国と言われていますね。
ただ、UPSは安いものだと1万円台から購入できますから、リスクとコストを天秤にかけ、1度は検討されるのが良いと考えます。
さて「NASを壊れにくくする方法」は以上です。
次は「NASがいきなり壊れるのを抑止する方法」をお話しします。
NASがいきなり壊れるのを抑止する方法
ここまで書いた内容を全て実行しても、
「いつかNASは壊れる」
という事実からは残念ながら逃れられません。
経年劣化による故障は避けようがないからです。
ですが導入して何年も問題なく稼働していたら、普段NASのことなんて思い出しもしないものです。
そんな状態である日突然NASが動かなくなったら、どうなるでしょう?
毎日使っている方々から、
「NASにアクセスできない!」
「仕事が止まった!」
とクレームが発生し、あなたは「ええと、なにからどうすればいいんだっけ?」とてんやわんやになってしまうかもしれません。
ただ、
「NAS、そろそろ壊れます」
ということが予め解っていたらどうでしょう?
少なくとも対策するかどうかに関わらず、心の準備ができますよね。
だからここで言う「いきなり壊れるのを抑止する方法」というのは、
「故障の予兆を知る方法」
とも言い換えられます。
NASの健康診断をあなたに代わって「誰か」がしてくれるサービスが、その具体的な方法です。
ちなみに当社の法人向けNASの場合、その「誰か」は「無償のクラウドサービス」です(「NarSuS(ナーサス)」と言います)。
- お使いのNASの状態を定期的に当社サーバーへ送信。
- 異常発生時にはメールでお知らせ&それ以外に定期レポートも送付。
というのが基本機能です。
他にもできることはたくさんありますが、これも長くなるので割愛します。
さて、最後は「限りなく『壊れないNAS』に近付ける方法」です。
限りなく「壊れないNAS」に近付ける方法
繰り返しますが、NASは24時間365日稼働が前提の機器です。
だから「壊れないNAS」の実現を目指すのが、本来あるべき考え方だと私は思います。
「いやいや……最初に『壊れないNASはありません!』って言ってたよね?」
はい、それはそうなんですが……限りなく近づける方法はあります。
その方法は、
「壊れそうになる前に買い替える」
です。
「えぇ……まだ使えそうなのに交換するの? もったいない」
と感じるのが普通かもしれません。
確かに「電子機器を壊れるまで使う」というのは、ある意味合理的です。
ただし「普通、NASは何年使うものなのか?」ということは知っておいたほうが良いでしょう。
ズバリ「5年」が目安です。
それは本記事でも繰り返し触れてきたとおり、HDDが消耗品だからです。
必ず寿命が来ますが、それは一般的に3-4年とも言われています。
実際は使用環境によって大きく変動するため、一概に時間で区切りにくいものです。
ただし我々の知見から申し上げると、5年を超えると故障しやすくなります。
ですから、NASの減価償却期間を5年と定め、5年経過時点で交換するのが「限りなく『壊れないNAS』に近付ける方法」だと言えるのです。
しかし現実問題、
「そうは言ってもなあ……予算に余裕があるわけじゃないし」
という方も多いのではないでしょうか?
私がここで申し上げたかったのは「絶対に5年で買い替えてください!」ということではなく、「5年以上使っている方は、リスクを抱えた状態であることを認識したほうが良い」ということです。
実際、運が良ければ7年でも10年でも稼働するケースはあると思います。
しかしそれは「いつ爆発するか解らない爆弾」を抱えているようなものです。
今日爆発するかもしれないし、2年後かもしれない。
それを踏まえた上で5年以上使い続けるなら、せめて「いつ爆発してもいいように」心の準備を行い、リスクに備えるべきだと考えます。
ここで言うリスクは前回の記事でお話しした「データ喪失リスク」と「業務停止リスク」のふたつ……もちろんこれらは「5年以内にNASを交換するなら、備えなくても良い」わけではありませんが、5年経過後も使い続ける場合は特に高い意識が必要ということです。
「NASって難しいの?」買う前に必ず考えるべき2つのリスクとは?
まとめ
色々書きましたが、要するに本記事で言いたかった本音は、
「『壊れないNAS』は存在しないから、一定の備えが必要」
ということで、その備えの選択肢を俯瞰すると、以下のようになります。
NASを壊れにくくする方法 | HDDの故障対策 | 高信頼性HDD採用 |
RAID等の冗長性対策 | ||
防振設計、防塵フィルター搭載 | ||
停電対策 | UPSの導入 | |
NASがいきなり壊れるのを抑止する方法 | 故障の予兆を知るサービス | |
限りなく「壊れないNAS」に近付ける方法 | 5年で買い替える |
もちろんこれら全ての対策を行うとリスクを最小化できますが、当然ながら組織ごとに事情がありますから、かけられる時間や手間、コストには限りがあるでしょう。
ではどこでバランスを取るべきか? ですが、私のオススメは、
- 高信頼性HDD採用。
- RAID等の冗長性対策。
- 故障の予兆を知るサービス。
の3つを最低限取り入れることです。
ちなみに当社製のNASの話で恐縮ですが、法人向けのラインナップのほぼ全て(エントリー向けの1ドライブNAS以外)がこの3つに標準対応しています。
「当社のNASは凄い」とPRしたいわけではありません。
つまりそれだけ当社としては、この3つを「費用対効果が高い対策」「当たり前のようにやるべき対策」だと考えているということです。
さて、本メディアではこれまで「NASとはなにか?」という疑問にお答えするところから始まり、続けて「導入時に対策すべきリスクは?」というテーマで「NASが壊れたときの備え」「NASを壊れにくくするときの備え」を解説してきました。
いまさら聞けない!「そもそもNASってなに? クラウドとの違いは?」
「NASって難しいの?」買う前に必ず考えるべき2つのリスクとは?
次回はいよいよ「NASの選び方」というテーマで、実際の機種をどういう観点で選ぶべきなのか? という話をします。
例えば当社の法人向けNASのラインナップは100型番を超えますが、
「こんなにあって、一体なにが違うの?」
と思うのが普通だと思います。
選びやすさという観点ではせめて「3つくらい」に絞るほうがいいと思うのですが、そうなっていないことには理由がある……ということで、その理由についてお話しします。
選択肢100型番以上!「で、何が違うの?」NASの選び方を解説
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